「ご飯だよー。」 奇天烈な服装をした少女がハリードを揺り起こす。いつの間にか眠ってしまったらしい。 不思議と全身は痛みを感じなくなってるのが分かった。そう、巨大な女性=ノーラがパワ ーヒールで癒してくれたのだ。その為にハリードは昏倒することになったのだが。 「ミルフィーユ・・。」 ハリードの目には少女がまぶしく映った。 「お前だけだよ、俺を」 (苛めないでくれるのは) そう言いかけて、止めた。二人がなかなか来ないので迎えに来たものが居たからだ。バン ダナを眼帯のように目に巻きつけた老人である。片足は義足になっており所々が焦げたよ うになっているのは気のせいか。 「二人とも飯じゃぞ。カタリナとノーラが腕によりをかけたそうじゃ。」 それだけ言うとくるりと後ろを向ける。 「ミルフィーユ、先に行け。俺はハーマンと話がある。」 ハリードは体を起こすと、ミルフィーユとよんだ少女を先にいかせ老人の前に重い体を引 きずっていった。男同士でしか分からないことがある。そんな期待を胸に抱いたのかもし れない。 「まだ痛むのか?」 老人からかけられた思いがけない言葉にハリードは呆然とした。 「どうした、間抜け面をして。」 熱いものがこみ上げてきた。それは涙。 「お・・おい?どうしたっていうんじゃ」 ただひたすらに・・。 熱かった・・・。 「俺を・・心配してくれているのか、ハーマン?」 嗚咽し感涙に咽ぶハリードにハーマンは微笑む。 「どうしたどうした、いい中年が涙するとは。この爺が仲間の身を案じることがそんなに不 自然か?」 ”仲間” 甘美なその響きにハリードはいてもたってもいられなくなりハーマンを堅く抱きしめる。 「お、おい、ハリードや?」 驚き戸惑うハーマンの耳に小さく木霊する声。それは有難う有難うと・・。 「苦労しとるんじゃなお前も・・。」 がっちりとお互いを抱擁する漢達の目には熱いものが一筋流れていた。 「ハーマン、お前だけだよ・・俺の・・」 ”ことを分かってくれるのは。”その言葉は完成を見なかった。 抱き合う漢達を見ているものがいたからだ。 「そうだったの・・二人とも・・」 そこにはエプロン姿のカタリナがいた。頬を赤らめ二人を見つめる瞳はどこか慈愛に満ち溢 れており、口元はうっすらと弧を描いている。 「頑張ってね二人とも、世間の目なんて気にしないでね。私は、少なくとも私だけは応援す るから・・。」 きらきらと輝く目は女性特有の狂気をはらんでいた。801。やぁ!おぅ!い!YAOI。 「ちょっと待ていカタリナ!わしゃお前一筋じゃけん、こげん男とばそげなことはありゃせ ん!」 呂律が回ってないのか方言なのか不明瞭な言葉を発しながらハリードを突き飛ばしカタリナ に追いすがるハーマン。そのハーマンの額を人差し指で突付いて微笑むカタリナ。隠さなく ってもいいのよ★お茶目さん♪と軽やかにステップを踏んで立ち去るカタリナ。その身軽さ に手を触れることさえ敵わないハーマン。小さくなっていくカタリナ。膝を突き項垂れるハ ーマン・・。ハリードは薄々最悪の場面を想像した。 「貴様のせいじゃ!」 誰も味方がいなくなった。そんな絶望がハリードを包み込む。 「おお、姫・・姫はどこだ・・。」 ハリードは・・・・・壊れた。