「こんな馬鹿なことはやめて頂戴。」
闇の中でもいや、中でこそか。凛と響く女の声に男は不敵な笑みを浮かべる。月が雲間か
ら姿を現すたびに闇の中から茨に絡められた、抜き身の刃を思わせる白い女の裸身が浮か
び上がる。そのうなじ、乳房、くびれ・・順を追うかのように視線を這わす男の目は満足
げにうっすらと弧を描く。
「流石だな。」
流石に美しい。その言葉を飲み込み男は続けた。
「こんな状態でもお前は動じないんだな。」
裸身を男の前にさらけ出してピクリとも動かない女の、刺すような視線を浴びながら男は
さも嬉しそうに唇を吊り上げる。
「今すぐこの戒めを解き立ち去るなら良し。さもなくば・・斬るわ。」
一瞬だけ女の視線は宙を舞ったがすぐに男の目を見据える。本気である。男はそう感じた
。この女なら男のソーンバインドの戒めを解き斬りかかることが可能なことは疑う余地も
ない。ただ、一瞬。一瞬だけ・・躊躇った。男はソレを見逃さなかった。
「わかってる。お前にはソレができる。」
なら・・といいかけた女を制して男は続ける。
「だが・・お前はソレを望むのか?」
言葉の意味をしばし飲み込みかねて目を白黒させていた女はややあって口を開いた。
「・・もちろん、仲間だったあなたを斬ることは望むことではないわ・・でも・・」
「そんなことじゃない。」
口上中に割り込まれ女は眉根を寄せる。しかし続けられた言葉にただ絶句した。
「こんな中途半端な責めでお前は満足かって聞いてるんだ。」
「な・・なな・・何を・・!」
怒りと恥辱で顔を上気させた女に男はふきだした。
「く・・は!はは!うぶなヤツだな〜おい!」
その言葉は女を一層怒らせたが男は構わずに続ける。
「お前、そんなんでアイツとはうまくやってけてんのか?」
笑いながら男が何気なしに問うと女は黙り込んだ。その顔には苦渋の色がありありと浮か
んでいた。やはり・・と大きく息を吐き、男が続ける。
「お前は俺と来るべきだった・・。」
その言葉に女がいらだちも露に叫ぶ。
「あなたと一緒にいたら・・どうだっていうのよ!」
「気持ちいいぞ。」
即答。間髪入れずに男が続ける。
「毎日お前の体を弄んでやる。体中を嘗め回して穴という穴に頭が溶けるような快楽を与
えてやる。望むだけのことをな。」
次第に女の顔が赤くなる。乳房から、脇から、背から、股から汗が線を引いて流れる。否。
内股から流れ落ちるものは汗ではなかった。ぬらぬらと妖しく光るそれは・・愛のしずく
だった。慌てて内股をこすり合わせるようにきつく股を閉じる女に男は満足そうに続ける。
「お前が俺を弄ぶことを望むならそれに付き合ってやる。男のしりを責めてみたいという
なら喜んで尻童貞をやる。楽しいぞう。」
「いらんわ!」
女が突っ込む。茨で絡められている為、電光のごとき手刀が飛ぶことはなかったが。
「ははは、いらねえか!そりゃそうだ。俺だって男の尻童貞なんて欲しくはねえ。」
「全く、あなたって人は・・どこまで本気なんだか・・」
クスクスと目に涙を浮かべて笑う女を抱き寄せその瞳を覗き込む男の目は深い闇の色をし
ていた。何もかもを包み込む、そんな印象を与える目だ。
「ふふふ、やはりお前は笑うと、よりいっそう美しさが際立つな。」
歯が浮くようなセリフに女は笑顔で答える。
「なあに?また面白いジョークでも考えたわけ?」
その目は好奇に少し輝いていた。
「さあ、どうだろうな。」
ニヤリと口元をゆがませたかと思うと男は女の唇に口付けした。
「ん!?」
驚きのあまり目を見開く女が抵抗するより早く舌の尖端を女の口蓋に滑り込ませると男は
女を強く抱きしめた。息苦しさのせいか羞恥のせいか、はたまた歓喜のせいか女は見開い
た目を次第に細めていった。目じりからは一滴の涙がこぼれて消えた。
「・・泣いているのか?」
目を閉じて仰向けに横になった女に男が声をかける。
「・・嬉し過ぎたか?ウム、気持ちよすぎたのか?ハハハ、そうだろう・・って違う?・
・もしかして嫌だった?・・初めてだったりとか・・」
次第に声の調子が弱くなっていく男に女は目を開けて答えた。
「うふふ・・ジョークよ。」
その言葉に男はひっくり返って爆笑する。
「なんでえ!心配してそんしたぜ。そうだよな、お前がそんなことで・・」
「初めてだったの。」
男が凍りつく。
「な・・に?ファースト・・キス??」
すまなそうに尋ねる男に女は笑みを含ませて答える。
「ううん。初めてなのは・・愛のある・・キス。」
最後の言葉は恥ずかしかったのか男から視線を外してたが、男はその言葉で我に帰った。
「愛のあるキスは初めて・・だと?」
寂しそうに微笑み返す女の目をみて男は無性に腹の辺りが熱くなった。
「私・・魅力ないのかな・・。・・ゴメン、忘れて。」
笑いながら涙を流す女を見て男はつぶやいた。
「忘れさせてやる・・。」
「え?」
女が尋ねるより早く男は胸まで反り返った槍を女の蜜壷に突き入れた。
「はうッ!?」
突然の衝撃に茨で絡められた背を思いっきり反らして女が身悶えると、男は柔らかく豊
満な乳房をいとおしそうに舐め上げる。同時に二つの腕をまるで別の生き物のように動
かすと滑るように女の全身を撫で回す。
「はん・・くぅ・・!」
全身を弄られる快感か、猛々しくも美しい男の槍に突かれる快感からか女の吐息も甘く
激しいものに変わる。
「だ・・だめ・・私は・・・私は結婚して・・ン!」
女が言い切る前に一つ大きく突きを入れ男は女の耳たぶに舌を絡めた。
「結婚してようが関係ない。夫はお前の中に入れてくれないんだろ?なら誰かが入れて
やらなきゃ酷ってモンさ。コイツの隙間は心の隙間ってな。埋めてやらなきゃ救われね
えよ。」

軽口を叩く男の目はしかし、ギラギラと獣のように光っていた。
「よう、人のモンになった割には締りがいいじゃねえか。ぎゅうぎゅうと締め付けてく
るぜ。」
嬉しそうに声を上げる男の目には息を止めて声を殺す女を通り越して金色の髪を靡かせ
る男の姿が映っていた。
「女に興味はねえだと・・フン、ならいいさ。こいつはおれが貰う。」
一度目を閉じると男は燃えるような双眸で女を見つめなおす。
白い透き通るような肌は桃色に上気し、豊かな乳房は衝撃が走るたびに大きく揺れる。
贅肉のないくびれた腰は悩ましげに踊り、柔壁を通して男に快感を与える。
「いい女だ・・」
改めてそう思う。
「身も心も・・俺が・・」
邪な笑みが張り付く。
ピタと男の動きが止まる。歯を食いしばっていた女が変化に気づきいぶかしげな声を上
げる。
「どう・・したの?」
男は意地の悪い笑顔で言う
「飽きた。あと、お前が動け。」
突然のことに唖然としていた女が震えだしたのを見て男は自分の軽口に後悔した。
「まずい・・泣かせちまったか・・??」
男のソレは杞憂に終わった。
「飽きた・・飽きたですって?」
わなわなと震える女の目には明らかに炎が宿っていた。
「げ・・怒ってる??」
さすがにコレは予想できなかった男に向かい女は半ばやけになったように叫んだ。
「いいわよ、やってやろうじゃないの・・!」
茨で両手両足を縛られた態勢にもかかわらず、女はつま先で地面を掴み両足をフルに使
い腰をおもいきりよく上下させる。
「のわ!!?」
あまりに激しいグラインドと締め付ける力に思わず男は尻餅をついた。が、女はくわえ
込んだ槍を離さずに動き続ける。
「(マジか!!?)」
ドッピオ!と噴出す男の間欠泉をまともに受けて女は叫んだ。
「あ!外に出してよ!!」
そんな声も今の男には聞こえていない。5、6回と脈動する衝撃に男は陶酔していた。
「ス・・スゲイ感覚だ・・。」
上の空で余韻に浸っていた男は再び走る衝撃に目を覚ました。
見ると男の上には女が座っていた。
「そんなに・・気持ちよかった?」
子猫のような目で見つめる女に男は不覚にも見入った
「あ・・ああ、あんな感覚どんな女からも味合わされたこと・・」
といいかけてやめた。自分ともあろうものが、素人同然のはずの女にいかされた。そん
な思いが湧いてきたのだ。
「お・・おい、勘違いするんじゃねえぞ。俺は別にお前にいかされた・・」
女が動いた。
「ホムォ!!」
男は堪らず声を上げる。出してすぐだというのに槍は一向に衰えた様子もなく女と男を
一直線に結んでいる。
「うふ・・可愛い。」
女の目はもう、暗く沈んではいなかった。愛すべき子供を見つめるような慈愛に満ち満
ちていた。女が腰を上げる。男が声を上げる。女が腰を下げる。男が声を上げる。
「最高だ・・。」
男はつぶやいた。
「何が?」
女が囁く。
「いや・・。」
二人にはもう言葉は要らなかった。互いに求め合い、絡み合う。ただそれだけで・・・。
朝日が二人の裸体を映し出す。
「一日がたっちまったな。」
「ええ・・。ステキな一日・・。」
男が口を開く。
「これから・・どうするんだ?」
女が寂しげに、しかし慈愛に満ちた目で答える。
「ロアーヌに・・帰るわ。確かめたいことが・・あるから。」
そうか・・と息を吐き出し、男は起き上がった。
「またなんかあったら俺を頼っていいんだぜ。いつでもお前のスキマを埋めてやるから
な!」
男はそういうと右手の親指と人差し指でOの字を作るとそこに左手の人差し指を入れる
マネをした。
「馬鹿!最後くらい格好よくきめなさいよ!」
男の肩を笑いながら叩く女を愛しそうに見詰めながら男も声を立てて笑う。
だが、もう女が男を頼るようなことがないことを男は知っていた。
「さあ、どうする女嫌いのロアーヌ候。この女は麻薬だぜぇ。」
東へ歩いていく女を視線で追いかけ男はつぶやいた。その後姿は服を着ているというの
にいっそう艶めかしく見えた。


ロアーヌ候の第4児生まれる!


こぢんまりとした酒場に一人の青年が駆け込んできた。手にした新聞を店主に渡すと風
のように去っていく。届いた新聞を店主が一本の柱にはりつけるとにわかに酒場が騒が
しくなる。そんな中真っ赤なバンダナで片目を覆ったキナ臭い男がいた。柱に集まるで
もなく粗末な紙に書かれた記事をこともなげに男は眺めて呟く。
「またか・・まったくあの野郎、女嫌いじゃなかったのかよ・・。」
さもつまらなそうに一人ごちる男に店主が答える。
「いやあ、お妃様は大変魅力的な方ですから仕方ないでしょう。」
にこりと人好きのする笑みを浮かべる店主ににやりと笑うと、男はそうだろう、と相槌
を打った。
「だがな、あいつは顔だけじゃねえ。あっちのほうも格別なんだぜ」
唖然とする店主を指差し男は豪快な声で笑う。
「ガハハハ!冗談だよトーマス!!」
暫く目を白黒させてた店主は合点がいったように頷くと大きな声で笑い出した。
「全く、悪い冗談が過ぎますよ!ブラックさん!!」
男は・・ブラックはそういうとカウンターに一つの指輪を置いた。
「何ですコレ?指輪のようですが・・。」
店主がそういうとブラックは飲み代と答えた。
「オリハルコーンの指輪だ。玄武の力を高める効果があるそうだぜ。売れば相当な金額
になるな。」
そこまでいうとブラックは含み笑いを漏らした。
「本当だったら彼女にでもやれというところだがな。俺もお前も一人だしな」
「全く色気も何もあったものじゃないですよ」
苦笑いを浮かべる店主に手を振りブラックは店から出た。限りなく澄み切った空が彼の
目には少し、ほんの少しだけ痛かった。

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