「なあにやってんのよ。」 テントで横になっているハリードに向かって、ポニーテールの少女が口を尖らす。少女 というには彼女は立派に歳を重ね「若い女性」というに相応しいが、それでも尚、少女と 呼ぶ方がもっともらしい顔つきをしている。目鼻立ちも整い美しいと大声で言っても問題 の無い顔だがそのいたずらっぽい瞳が少女と呼ぶに相応しい印象を与えている。この大男 をどうやってからかってやろうか、そんな目だ。 「みりゃ分かるだろうエレン、しこたま殴られて起き上がれねえの。」 その答えに満足そうにエレンと呼ばれた少女は唇をUの字に曲げる。 「ははーん、さてはカタリナさんになんかしたな??」 何をしたんだ〜?とハリードの頭のすぐ前に腰を下ろす。両腕はしっかりと彼の頬を掴ん で放さない。別に〜と流そうとするハリードのラグビーボールのような愛嬌のある頭蓋を 地面にこすり付けるつもりなのだ。案の定ハリードはエレンの試みそのままの答えを発し、 地面が焦げるほど頭を擦り付けられた。 「て・・!てめえ!なにしやがる!」 動けない彼に巧みな関節技を仕掛けるエレン。口元には玩具を見つけた子供のような笑 みが張り付いていた。 「そ〜れそれ、肩外れちゃうよ〜」 本気のようだ。ギリギリと肩骨が悲鳴を上げる。 「わたた〜!!待て待て!いうから、言うからチョット手え離せ!」 涙声で訴えるハリードに満足げな顔で頷くエレン。彼女はどんな遊びでも全力でやると専 らである。遊びで戦えない体になるなど愚にもつかない。 「で?で?何をやったの?」 本当に楽しそうに絡んでくるエレンにハリードは辟易した。こいつの顔がこうじゃなか ったらもう殴ってるな・・・。全く、カタリナのつめの垢でも煎じて飲ませりゃちっとは 女らしくなるのかね・・。と思いかけて止めた。ハリードが動けなくなった原因は彼女の 拳だからだ。ウチの女どもときたら・・そんな思考もすぐに現実に引き戻される。 「ほらほら、早くうう!」 ギョリリ!と響く肩にハリードは泣いた。 「カタ・・カタリナに・・・。」 「うんうん?」 「男を教えてやるって言った。」 瞬間、何かがはじけた音がした。 「こおんんの・・女の敵ぃぃぃ!!」 ゴメキャラ!!彼の肩が奇妙な音を立てる。壮絶な悲鳴を上げるハリードを振り返りも せずに、大股で走り去っていくエレンと入れ違いに、ハリードより一回りほども大きい女 性が・・・胸に実った果実が無ければ確実に見間違えるが・・入ってきた。 「あんま女泣かすんじゃないよ〜。」 そういうと巨大な女は担いだエルダーバブーンを無造作にハリードの上に置いた。 「・・・むしろ俺が泣かされてるよ・・。」 血の臭いを発する巨猿の屍の下でハリードは呻いた・・・。 次へ。